タヒチ博物館 珍道中


皆既日食を終え翌日、曇り時々雨。白波が立ち、地震のようにゴトゴトと揺れ、昨日の奇跡的な天気に、いや船長の船の誘導が素晴らしかったのか、とにかく感謝。

事務局長に確認したところ、船は計画に基づいてコースはすべてGPSで自動制御され、一切人為的行為はなされていない。天候を読んだ航路ではない。よって天候は奇跡だったと。あまりにも情けない回答に夢がなかったが、晴れて良かった。

それから毎日、海面は大きくうねり、天気は曇ったり雨が降ったりで、デッキに出ることができず散歩もできない。欲求不満が残る毎日を過ごす。

そして今日、タヒチ着岸の朝を迎えた。薄暗い日の出前はデッキが濡れ、雨が降った模様。これまで我々の旅は天気になぜか恵まれ、寄港地で雨降りは一度もない。乗客の皆が、いかに行いが良いか、信じられない旅が続いている。なんと、今日も今までの悪天候が打って変わって、晴れ間が見えてきた。

タヒチのパペーテは3度目の訪問、港が中心部なので、この周りの散策でもいいかな、と考えていた。帰船は夜11時までと時間があるし、天気もいいので、バスを使ってタヒチ博物館行くことにした。

パペーテから30分でタマヌで下車、徒歩10分で行けるらしい。ところが、ここのバスは経営はドライバー個人で運行は政府が管理しているという、とりあえず公共交通機関だそうだ。土曜日は午後の運行は運次第と情けないバスだ。

ここの通貨は約1米$=100F(フレンチ・パシフィック・フラン)で、米ドルが流通するとのこと、円感覚で換算が楽だ。

港に降りると、タヒチのふくよかな方たち8ビートの明るいリズムの曲で、小さな白い花を一輪、皆に手渡し歓迎してくれる。花の香りに包まれて、早速インフォメーションでバスの状況を聞くが、多分運行しているだろう言う。

次はバス停探しだ。埼玉では信じられない、信号のない横断歩道で車は必ず止まってくれる。この時、ハザードを点けて止る。この方法は素晴らしい、真似すべきだ。

バス停らしき標識は無い。人がたむろしている所が大抵バス停だが、やはり分からない。聞けば丁寧に教えてくれる。でも分からずうろうろしていると、声をかけてくれ案内して、来たバスまで連れて行ってくれた。両替所が見当たらないので、商店で買い物をして、お釣りの現地通貨手に入れ、無事乗車。運転手にタマヌ村のMusseで降ろすよう念を押す。

バスは海岸に沿って進み、街中は車で混雑、サンゴ礁の青い海と白い波を見ながら快適に進む。街路樹にパンの木やたわわに実をつけたマンゴウやバナナが目に付く。30分は過ぎたころ、ガイドブックにはスタンドを過ぎ、すぐスーパーマーケットがバス停で、降りると書いてあるが、バスは止まらずそのまま進む。乗客が気づいて運転手に止れと言い、我々に教えてくれる。バス停を通り過ぎてバスがやっと停まり、Nは運転手の肩を叩いて「ダメねー」と言って、皆さんにお礼を言って降りた。

さて、ここでまた迷う。通りがかりの人に聞き、親切に案内までしてもらい博物館に向かう。通りから左手に、強くなった日差しのもと15分ほど住宅地を進み、木立が茂る広々とした地所に着く。落ち着いた博物館だ。

受付で入場券を買おうとしたら、米ドルは駄目だと言う。えっ、そんなー。カードは使えますよ。待ってー、3人共忘れて来た。こんなに苦労して到達できたのに。館の人はやさしく、あきれた顔をして「庭と海岸をご覧になれば、ここは無料です」そう言われても、こうなれば見たい気持ちが強くなるのが人情。スーパーまで戻って現地通貨を手に入れるか悩んでいると、PBの乗客が現れ、思い切ってカードで建て替えてもらおうと、お願いした。部屋番号を交換して一件落着。

タヒチの原住民の長い歴史の貴重な生活資料の展示物を見る。彫刻は、なにか穏やかで、ひょうきんな感じだ。観覧者が少ないせいか館員が少し説明してくれた。

館の庭は彫刻や樹木が配置され、枯れた池には背が高い蓮が伸びて、小鳥たちが人を恐れず、戯れていた。土手の先は、サンゴ礁の海が広がっていた。遠く雲を頂いたモーレア島が見え、何艘ものカヤックが波間に見え隠れし、つりに夢中のカヌーが通り過ぎて行く。青い海に暫く見とれていた。

別のPB乗客が帰りはタクシーでと声をかけてくれたが、5人なので、大型が通れば乗ることにして、取りあえずバス停に行くことにした。現地通貨フランが少ないので、スーパーで買い物、釣銭を貯め込む。炎天下バス停には日陰がなく、試練の時間だ。30分過ぎてもバスは来ない。心配していたら、現地の人が一人現れ、パペーテ行と判り安心する。その後外国人親子4人で総数10人がバスを待つ。

面白い光景に会った。センターライン上に置かれたコンクリートブロックを特殊車両が移動して車線を変更していた。土曜日の午後は上り方面の車線を拡げる様だ。

一時間は待ったか、やっとバスが到着、乗り込むがもう一組の夫婦が米ドルしか持ち合わせておらず、行のバスは米ドルで乗れたが、帰りのバスは駄目だと言われ途方に暮れていた。幸いこちらの持ち合わせのフランに両替でき事なきを得た。今日は持ちつ持たれつの一日なった。船旅の楽しい一場面だ。

午後のスーパーは殆どの店が閉まっている。欲がないのか、宗教上の問題か。緑のバナナを買い、船に戻り休息をとる。

夕方、港前に屋台車ルロットが集まり、ここではアルコールが禁止で寂しいが、色々な食事が楽しめる。マグロのリッゾットじゃなくてカルパチョとロシアンサラダとフライドポテト添えステーキ各一皿を注文。船飯と違って美味しい。3人で分け合うが、フライドポテトが多すぎて食べきれない。周りはPB乗客ばかり、若人に回す。隣の食の味見をさせてもらう。皆和気あいあい、これも船旅の一体感か。

隣のステージではタヒチの踊りが披露されて、戦いの勇ましい筋肉隆々の若人の踊りに、女性軍はうっとり。激しい踊りだ。男だけかと思いきや、女性の勇士の踊り、子供の踊りと、頭が混乱する。ホラの響きに、太鼓のリズム、ウクレレ、ギターのリズムに張りのある歌声に乗って、観衆も一体になってタヒチの夜を楽しみ、乗客みな満足顔で船に戻った。

夜中、船は出航、後ひと月の旅、どこまでつくか。